2007年11月04日

ヴィーナス

清々しい連休です。
昨日3日(土・祝)は、昨日封切の『ヴィーナス』(ロジャー・ミッシェル監督)シネ・リーブル神戸で鑑賞。

『Jの悲劇』の映画が印象深かったので同監督が撮った作品として観てみたかったのと、「人間賛歌」と評されていた今作の軽妙洒脱な恋物語に時には浸ってみるのも悪くはないかと選びました。

                リーブル神戸ヴィーナス.jpg リーブル神戸

けれど、そんな私の軽い思いをいい意味で遥かに裏切ってくれた老いを見つめ、抗えぬ身体の衰えと向き合いつつ生きる事を渇望する姿を描いた、名優ピーター・オトゥールのオーラが見える、深い余韻を残す佳品でした。

story
  20代の奔放な女性の登場により、自分の人生を見つめ直す70代の男性の心の旅が描かれるヒューマンドラマ。監督は『ノッティングヒルの恋人』『Jの悲劇』のロジャー・ミッシェル。
 モーリス(ピーター・オトゥール)イアン(レスリー・フィリップス)は、1度も大役を演じることもなくベテラン俳優となってしまったさえない役者仲間。ある日、イアンの姪の娘ジェシー(ジョディ・ウィッテカー)が田舎町からやって来たことにより、2人の穏やかな生活は一変。モーリスは自由奔放なジェシーに夢中になるが・・・。(シネマトゥデイより)

                 ヴィーナス.jpg

 私は数種類の処方薬の欠かせない動きも緩慢な老人ではないけれど、若さを鼓舞し時に若さゆえの残酷さを纏えるほど勿論若くはありません。どちらでもないけれど、弾けるような若さは戻ってこない代わりに老いはやがて確実にやってくる・・・そう考えると私にはモーリスや彼の元妻ヴァレリー(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)の台詞の方がむしろじんわりと心に染み込んでくる感じがしました。

 ジェシーはモデルになりたいと言いながら絶えずジャンクフードとアルコールを口にし(身体をいとう必要がないからできるのですね)、辛辣で時に挑発的な言葉でモーリスを翻弄します。
そこには怖いものなどないという不遜さがありますが、その若さゆえの傲慢さこそが老いたモーリスの心を捉えたと言えるのでしょうね。
(観ていて辛くなるほどの事もありますが、たった一つ彼女の描かれ方としてよかったのは、彼女がモーリスを愚弄する時「くそったれ」とか「エロ爺い!」とか罵倒しつつも決してその具現する身体的衰えへの罵詈雑言を口にしなかったことです。)

奔放極まりないジェシーですが、モーリスの放った一言がキッカケとなり彼女が心の奥に隠していた傷が明かされる段があります。
二人の出会いから、衝突、そして少しずつの絆の深まり、これらはよくある普通のカップルの恋模様と全く同じなのですね。
決定的に違ったのは、死期の近い老人と孫娘ほどの若さの二人であったことでしょうか。
                story_i2.gif 公式HPより転載               

モーリスは確かに「老いて盛ん」的な振る舞いも多く単なる好色家にしか見えないかもしれませんが、彼が何よりジェシーに説くのは女体の美しさとそれが多くの男性に与える感動なのでした。この事は、最終的に彼を失った後でジェシーが気付く事で、ラストにはそんなジェシーの素敵なシーンが用意されています。


冒頭で「老いを見つめた作品」と書きました。

モーリスは老いた肉体を抱えつつ、精一杯「生きる」事に心血を注いでいます。
死が直前に迫っている時でさえ、彼は生身の身体で様々な物に触れ感じようとしているのです。生きる事はただ呼吸する事にあらずとばかり、彼は「五感を持つ人間として」「男として」生きようとしているのです。これらの一連のシーンは、切なくも人間の力強さを感じさせるものでした。
そして一旦は萎えかけた感情(ジェシーを想う気持ち)も、彼女をチンピラのようなBFの手から救い取ることで再び「生」の力を漲らせるのですのですが・・・この事が結果的に彼の死期を早めてしまったわけです・・・悲しいことに。
                pnote_i2.gif 公式HPより転載

そんなモーリスも、やはり老いと死の予感には絶えず苦悩している様子が随所に散りばめられているのですが、これが辛く観る者の心を締め付けます。
時折訪ねる元妻の家。
別れの言葉らしきものを口にするモーリスに元妻ヴァレリーは「何処へ行くの?」と。
その問いにモーリスは深い憂いを込めて静かにこう言います。
「永遠には生きられないよ。」


別れてしまったけれど、一時でも互いの人生が重なっていた二人。妻は夫の持つ快楽の追及なくしては生きられない本質を見抜き、受け入れ、そして流した・・・。「永遠には生きられない」と寂寞の思いを吐露したモーリス。別れて今や同士のようになった二人に静かな沈黙と憂いを含んだ微笑みの時が訪れます・・・感慨深いシーンでした。

そして圧巻だったのは、礼拝堂の隅で昔日の思いに浸り親友イアンと共にダンスをするモーリスと、枯れ葉の積もる公園で「To be ,or Not to be . That is the question !」と自問自答するモーリスの、二つのシーンです。
                pnote_i1.gif 公式HPより転載
              
いずれもドヴォルザークのスラブ舞曲第10番が背景に大きく流れるシーンです。
あの哀愁漂う名曲のうねりと共に、忘れられない名シーンとなって心に残りました。

ピーター・オトゥール、凄いです。オーラを見ました。



  クラシックの名曲は時に深く深く心に浸透しますね。
自分の来し方を振り返り、自分自身に何かを問う時などはクラシックがいいのかもしれません。
ドボルザークのCDは、スラブ舞曲ではありませんがカラヤン指揮の「新世界」がありましたのでブログのアップをしながら聴いています。
日曜の昼下がりらしく、(最近少しハマりつつある)梅酒のソーダ割りと共に。
                 梅酒2.jpg
            かわいい猫が半身、登場 (^_^;)               


posted by ぺろんぱ at 13:08| Comment(4) | TrackBack(2) | 日記
この記事へのコメント
ピーター・オトゥールと言えば・・『トロイ』を観終わってから、出演に気付いて「えっ?!」と思ったような・・そんな覚えがあるようなないような(←どっちやねん)気がします。

ヴァネッサ・レッドグレーヴさんの助演がやや気になりますね。ヴァージニア・ウルフ原作の『ダロウェイ夫人』でしたかね・・(・ω・)
Posted by TiM3 at 2007年11月04日 23:36
TiM3さん、こんばんは。
ヴァネッサさん・・・監督かプロデューサーだかがこの役を彼女に依頼する際にかなり逡巡されたそうです。数シーンしかないので「こんな役を大女優に依頼していいのか」という具合に。
でもヴァレリー役はとても大切な役どころで、化粧っけなし・髪はばさばさ・杖無しでは歩けない、でも意地を貫いて生きてきた強さとモーリスに対する母性をも感じさせて、ヴァネッサさん、よかったです。
Posted by ぺろんぱ at 2007年11月05日 22:32
ぺろんぱさん こんばんニャ!
妻ヴァレリーがそれまではいかにも余裕のない老女だったのに、
ジェシーと話すシーンでは見間違う様な貫禄と美しさで晴れやかな表情でしたね。
ピーター・オトゥール・・・この役は私が今迄観た中では一番印象的でした。
Posted by ゆるり at 2007年11月10日 22:59
ゆるりさん、おはようございますニャ。
TBとコメント、ありがとうございます。

>ピーター・オトゥール
あの人は『アラビアの・・・』の出演で名を大きく馳せたのにそれに潰されることなく(と、言うかそれを意にも介さず)、淡々と様々な小さな役柄をもこなして来てこられたNice!な俳優さんだと何方かが評しておられたのを目にしたことがあります。

私は余り多く出演作を見てはおりませんが、今作のオトゥールさん、ぐっと来ました。

Posted by ぺろんぱ at 2007年11月11日 09:01
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