シネ・リーブル梅田で『天使の分け前』(ケン・ローチ監督)を観てきました。
上映前のシアター内に流れてきたのは本作のテーマ音楽、プロクレイマーズの「I'm Gonna Be (500Miles)」という曲。これは大好きだった映画『妹の恋人』(ジョニー・デップ主演、1993年日本公開)のテーマ曲でもあった音楽ですので、否が応にも期待が膨らんでいったのでした。
さて・・・。
story
いつもケンカばかりしている青年ロビー(ポール・ブラニガン)は、トラブルを起こして警察ざたに。しかし、恋人との間にできた子どもがそろそろ出産時期を迎えることに免じ、刑務所送りの代わりに社会奉仕活動をすることになる。まともな生活を送ろうと改心した過程で指導者のハリー(ジョン・ヘンショウ)に出会い、ウイスキーの奥深さを教えてもらったロビーはその魅力に目覚めていき・・・。

※story、画像とも、映画情報サイトよりの転載です。
ウイスキーの芳香がスクリーンから湧き立ってくるような映画でした。
ご存知のこととは思いますが、「天使の分け前」とは、ウイスキーなどを樽で熟成して味わいを深める過程で毎年2%ほどが蒸発して失われていくこと、です。その失われていった2%のアルコールを、お酒造りに関わる人々は「天使の分け前(Angel's share)」と呼んでいます。とっても素敵な言葉ですよね。
仕事にも就けず、犯罪や暴力依存の日々。そこから“変わって”ゆこうとする若者。
劇中の台詞を借りれば「心のすさんだならず者」が主役なのは、ハートフル・コメディと銘打たれる本作ながら、底辺社会を生きる厳しい現実を描き続けてきたケン・ローチ監督らしさを感じる世界でした。
物語の展開は想像していたのとは違って、「変わる」ことの起爆剤に彼らが選んだ行為がやっぱり犯罪(窃盗)だったことに初めは違和感を拭えなかった私です。
しかしそのことに言及するのは野暮なことかなと、途中から棚に上げました。あれも謂わば「天使の分け前」だったと考えれば、それはそれで愉快な展開と思えなくはないですから。 ココが、この映画に乗れるか否かの、ある意味「分岐点」だったのかもしれません。
私は、、、たった一つでも何かに秀でるということ、そしてそれを見つけることができるということ、その素晴らしさをつくづく痛感させられた本作でした。
ロビーの場合は、確かな鼻と舌(テイスティング技量)でした。そして自分が感じた味と香を“素直な”言葉で表現できる真っ直ぐさも。
極上のウイスキーをストレートで口に含み「不味い」と顔をしかめたロビーが、少しの水を加えたそのウイスキーの香に今度は小さくハッと表情を変えた瞬間、私はスクリーンの前で鳥肌が立つのを感じました。だってウイスキーって、少しのお水を足すことで香がグンと際立つアルコールなのですから。凄いな、ロビー・・・って思いましたよ。
才能、そして未知なる自分、明けゆく未来、それらとの邂逅の瞬間でした、あれはまさに。

しかし、その才能の開花だけでロビーが変わっていったわけではないのがこの映画の愛すべきところです。
そこには愛する恋人とベビーがいて、悪タレだけど守りあう仲間がいて、何より、どん底にいたロビーに手を差し伸べてくれた指導員のハリーがいたのです。ハリーもまた、違う意味で寂しい中年男性なのでした。
本当の「天使の分け前」を見たラストは、じんわり涙、です。
あー、美味しいウイスキーが呑みたくなりましたー。

でも今日のところは、私的ソウル・アルコールの日本酒を優しい笑顔のママさんのいらっしゃるお店で。
この画は剣菱のひや、です。
この映画、かなり注目しています。監督が監督だし、ストーリーが惹きつけます。
俺は下戸ですが、早く見たいっすw
温かなエールを感じる作品でした。
>「変わる」ことの起爆剤に彼らが選んだ行為がやっぱり犯罪(窃盗)だったことに初めは違和感を拭えなかった
そうなんですよねぇ〜。
そこが我々は日本人であり、
この舞台の、主人公等が置かれている社会の、抜け出せない現実を、
監督らしい毒を含んで送り出しているのだと、
そういう気がしました。
"剣菱のひや"ずるいっ!(笑)
そそられまする〜〜(U_U*)
dkさん、こんばんは。
ご無沙汰いたしております。
思い出してお越し下さり、とても嬉しいです。
ケン・ローチ監督の新作っていうだけで惹かれますが、そのうえ“どん底から何かに目覚める”ってくれば尚更に。
ウイスキーの香が漂いますよ。シアターで酔わないでくださいね〜。(*^_^*)
Kiraさん、こんばんは。
私もお伺いしてコメントさせて頂こうと思っていたところでした!TBもありがとうございます!
>主人公等が置かれている社会の、抜け出せない現実
はい。私もKiraさんのレヴューを拝見して、「そうか、そうだったのだな・・・」という思いに、概ね平和といえる日本に暮らす自分の視野の狭さを痛感した今です。
「棚上げ」してはいけなかったのですね、むしろ。
そこのところの彼らの抱える退路の無さみたいなものを考えるべきだったのですね。
物語が進むにつれ、ロビーの眼がきらきらしていくように感じたのは私だけではないはず、ですよね。
バリバリ表面張力を見せる剣菱。
ああ、最初の一口がまたたまらない〜!(*^_^*)
やはりそうでしたか。自分で言うのもなんですが、
基本真面目な人はそう思ってしまいますよね。
というか、心配性な私は仲間がパーッと派手にお金を使って
警察に目をつけられて、ロビーの犯罪がばれてしまうのでは。。。。
なんて事まで考えてしまいましたよ。
イギリスよりもどこか素朴さを感じさせるようなスコットランドの人達と、
その荒涼とした風景にも心惹かれるものがありました。
>少しのお水を足すことで香がグンと際立つアルコール
そうなんですね。なるほど。ふむ。試してみようかな。
>仲間がパーッと派手にお金を使って
>警察に目をつけられて、
お〜なるほど!
確かに、あの子たちならその可能性が大ですよね。
そうならないことを祈ります!
>スコットランドの人達と、その荒涼とした風景にも心惹かれ
スコットランドにウイスキーの原酒を訪ねる旅なんて、贅沢でいいなぁ〜って思いました。
私は若き頃はウイスキーはロックで呑む方が断然その芳醇な香を楽しめて美味しいって思っていたのですが、少しのお水で割れば薄まるというより逆に香が立ってくるのが不思議で、今は(勿論ロックはロックとして楽しみますが)ハーフロックとかにしていただくことのほうが増えました。
是非どうぞ。(*^_^*)
うまいウイスキー飲みたい!
cochiさん、こんばんは。
そうですね〜、こういう映画を観たら“本当においしい”ウイスキーをゆっくり味わいたくなりますよね。そして飲みながら、また芳醇な味わいのある映画も観たくなって・・・。
イイですよね、そういうの。
連日大盛況の銀座テアトルシネマで、遅ればせながらようやくみましたー。
サクセスストーリーにもいろんなものがありますが、ウイスキーのテイスティングで才能を発揮するっていうのはそれはもうワクワクしますよねー。
ヨーロッパの映画監督はちょっと成功するとハリウッドに行ってしまったりする中、ケン・ローチはスコットランドならではの映画を撮ってくれるので嬉しくなります。
私も久々においしいウィスキーが飲みたくなりました。
ハーフロックやってみます!
かえるさん、こんばんは。
銀座テアトル!
佳き響きですね〜関西人としましては何だかその響きでワクワクします。(*^_^*)
>ウイスキーのテイスティングで才能を発揮するっていうのはそれはもう
テイスティングの技量って、それこそ本当に「持ち前の自分の才」ですものね。憧れます。
ケン・ローチ監督。
私的にはローチ・デヴューが未だ10年に達していない私ですが、今までに観た作品はどれもよかったです。ほかの監督作品に是非もっと触れてみたいです。
ハーフ・ロック、お試しくださ〜い。(*^_^*)