2014年01月24日

さよなら、アドルフ


  やっぱり神戸公開まで待てず、梅田ガーデンシネマで『さよなら、アドルフ』(ケイト・ショートランド監督)を観てきました。

今年は映画初めの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』がとてもお気に入りの一作となって幸先良いと思っていたところ、早くも1月後半にこんな秀作に出会えたことに深い感慨を覚えます。

しかしながら、、、本作の世界は非常に重く厳しく、109分の上映時間はある意味“スクリーンと向き合う闘い”でした。


story
   第2次世界大戦の終戦直後、ナチス親衛隊高官の父と母が去ったあと、14歳の少女が小さい妹弟と共に祖母に会うために困難な旅をする姿を描く。
  1945年、敗戦して間もないドイツ。ナチスの幹部だった両親が去り、14歳の少女ローレ(ザスキア・ローゼンダール)は、妹と弟と共に南ドイツから900キロ離れたハンブルクの祖母の家へ向かうことに。途中、貼り出されたホロコーストの写真を見たローレは困惑する。翌日、連合軍兵士に呼び止められたローレはユダヤ人青年のトーマス(カイ・マリーナ)に助けられ・・・。

                       さよならアドルフ.jpg

                     ※story、画像とも、映画情報サイトより転載させて頂きました。


※結末に触れる記述をしています。


  ワンシーン、ワンカット、心に語りかけてくるようでした。

暗く重たく、心身共に多くの痛みを伴う世界をリアルに描きながら、時に絵画的な、時に詩的な、心が吸い込まれるような美しさを感じました。
一つの風景、例えば川の流れや野の草花、更に、存在する静物の一つ一つをカメラが静かにじっと捉え続けます。まるでそこから何かが語られてくるかのように感じるのです。人物の発する台詞は決して多くはないのに、全てのシーン、全てのカットが何かを残していってくれるのです。
その演出美をどう表現したらよいのか私には良い言葉が見つからないのですが、とにかくその「美なるもの」があったからこそ、この苛酷な旅路を見つめ続けられたのだと思います。
ケイト・ショートランドという御名、しっかりと心に刻みました。

                       さよなら2.jpg

 戦後の荒廃しきった状況下、米・英・ソ連のカオス的統治下におかれたドイツでは、ナチス親衛隊高官の子どもであることは命の保証を許しません。文字通り身も心もボロボロになる苛酷な旅。

青年トーマスとの出会いは本作の最初の分水嶺であり、その出会いはローレを(やがては)大きく変えます。
トーマスが密かに抱えていた闇が漠然と見えてくる終盤の展開は衝撃であり、秀逸です。

本物のトーマスにも想いを馳せずにはいられません。彼の人生、妻、子どもたち。それらを理不尽に奪い去ったものはローレが真実だと信じ続けてものです。
神のように偉大な存在であったものが実際に行ってきたこと。信じていたものの崩壊と行く先々で受ける迫害は、ローレたちを二重三重に痛めつけます。旅を続けながらローレの葛藤は凄まじいまでのものだったはず。彼女の険しい表情がそれを物語っていました。

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そんな中、ローレたちを襲ったこの上ない悲劇。
ここがいわば第二の、そして最大の分水嶺であり、ローレの中でそれまで彼女自身を支えてきたものが完全に折れてしまった瞬間だったと思います。

命からがらやっと辿り着いた祖母の家で、ローレが出会った自分自身とは・・・。

今まで生きてきた世界は何であったのか。
絶望の中で生きることの極限を経てきたローレは、「新たなる絶望」の果てにどう生きてゆくのでしょうか。
ローレがどう生きてゆくのか、その行く末は観る者に課せられた試練のようにも感じられました。



                       プレゼント焼酎.jpg

  こういう映画のあとは濃くて温かいお酒が恋しいです。
掲出画像はこの日の画ではありませんが、時々お伺いしているお店です。
何度目かの来店記念とかで焼酎のボトルがプレゼントされました。お湯割りで濃いめに(うんと濃いめに)作って呑ませて頂きました。




posted by ぺろんぱ at 20:13| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
あ〜、ぺろんぱさんに先を越されてしまった(笑)

この週末に見に行こうと思っていますので、
それからまたお邪魔します。
それまでは読むのは、我慢ガマン。気になりますが。 
失礼しました。
Posted by yururi at 2014年01月26日 22:06

yururiさん、こんばんは。

ご覧になるのでしたらyuruiさんのレヴューを楽しみにしています!
当初はストーリー展開に触れないままで書いたのですが、やっぱりどうしても書かずにはいられない事があって「結末触れ」になってしまいました。^^;

是非観て頂きたいと思っていたのでyururiさんの鑑賞リストに入っていたのは嬉しい限りです。

Posted by ぺろんぱ at 2014年01月27日 19:42
この映画は気持ちの整理が難しく、
なかなか稚ブログにもあげられませんでした。

ぺろんぱさんのレビューを拝読して、
あぁそうそう、そうなのよ〜と勝手にうなづいています(笑)

大人たち、特にローレの祖母のように年を重ねた人は
真実と向き合うには勇気がいるのでしょうね。
そこから目を背けてしまった人も少なくはないのかもしれません。

監督はオーストラリアの人でイギリスの映画会社出資で作られたようですが、
ドイツの戦後処理がしっかりなされてるから、こんな映画を
作る事ができて受け入れられるのかなぁなどと考えていました。
日本も戦後処理を上手くやって欲しいなぁと、
こういう映画を見るにつけて思うのです。
Posted by yururi at 2014年02月08日 10:19

yururiさん、こんばんは。

そうですよね、この映画、複雑な思いを引きずります。私もレヴューのアップまで3、4日掛かかりました。(私は挙げようにも酔ってPCに向かえなかったってこともありますが・・・^^;)

ローレの祖母のような人は、おそらくはもう自己の思想を根底から変えることはできないでしょうね。
真実ともしかして分かっていたとしても、それを拒絶して貫き通したい(守りぬきたい)自分があるのでしょうね。

>ドイツの戦後処理がしっかりなされてるから

私は実は、ドイツの戦後処理の方向を必ずしも“きちんとした”ものではなかったのではないかとも思っているのです。
それでふと、もしかしてドイツの出資でドイツ人の監督が同じ題材を撮るとしたらどんな世界になるのだろうかと考えてしまいました。

・・・こうしてまだまだ、様々な視点の思いを引きずる本作でした。
後ほどy貴ブログにゆっくりとお伺いさせて頂きますね。(*^_^*)

Posted by ぺろんぱ at 2014年02月09日 19:13
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