大好きなアキ・カウリスマキ監督作品に常連の、大好きな男優でした。
命日には彼の映像を眺めてをテキーラを飲もうと書いていましたが、先の日曜以来、時間のある時に二、三の作品を取り出して映像を楽しんでいました。
今日あらためて彼を偲ぶ為の映像は『ラヴィ・ド・ボエーム』で・・・。
マッティ・ペロンパーらしさが感じられるのは例えば初期の作品『パラダイスの夕暮れ』なんかがそうで、これもとても好きな作ですが、

「ラヴィ・・・」はあらゆる意味で完成度も高く、カウリスマキ監督が映画人となってから15年もの歳月をかけて懐に温め続け創り上げた作品であるということも含めて、やはりこの映像で彼をじっくり振り返ってみたいと思います。
「ラヴィ・・・」の中でのペロンパーはとにかく仲間と赤ワインをひたすら飲んでいるので、テキーラよりも今日は赤ワインでペロンパーに乾杯しようと思います。

(アンドレ・ウィルム)とレストランで意気投合。
彼にその部屋に連れていかれると既に次の住人、音楽家ショナール(カリ・ヴァーナネン)が居すわっており、かくして3人の共同生活が始まり、やがてロドルフォはミミ(イヴリーヌ・ディディ)という名の女性に恋をする。しかし不法滞在であることが発覚したロドルフォは捉えられ強制送還されてしまうが・・・・。
'92年のベルリン映画祭国際批評家賞受賞。有名なプッチーニのオペラ“ラ・ボエーム”の原作でもあるH・ミュルジェールの『ボヘミアン生活の情景』をA・カウリスマキ監督が映画化したもの。(ネット・作品解説より)
カウリスマキは、光の当らないものに光を当ててくれる、そんな監督です。
ヒーローはいません・・・。ここにも風采が上がらず、貧しくて、売れなくて、惨めな生活を強いられる芸術家達3人がいます。
今で言うところの“ダメンズ”ですか。こういう負け犬的な男を描くのがとても上手い、です。上手い、というのは違うかな、慈しみ(愛しみ)をもって描いているから目線が自ずと同じになるのでしょう。
すごく悲惨な状況にいる三人なのに、どこか可笑しい・・・カウリスマキ流のユーモアも彼らへの愛情と共に映画の随所に存在しています。
例によって台詞は極端に少ないのですが、マッティ・ペロンパーの「眼」「眼差し」、これが語ってくれます。
何処か「諦念」をたたえた瞳、と以前書きましたが、観る度にその印象は強くなります。きっと私生活でも、彼は「触れてはいけない」何かを抱えて生きていたんじゃないかと思います・・・私の勝手な想像ですけど。
ミミとの恋は、成就し、壊れ、やがて再び出逢い、そして再び今度は永久の別れを迎えます。
社会の小さな片隅で、無償の愛があって、悲しみを共有し合う男同士の情けがあって、喜びと悲しみが季節の移ろいと共に描かれていく一篇の物語。
“全然詩的じゃない人物達”が奏でるとても“詩的な”物語です。
私は、映画において「悲劇という嵐を迎える前の凪状態のような穏やかで優しいシーン」というのがとても好きなのですが、この作品でも、やっと幾ばくかのお金を得た三人が其々の恋人を伴ってピクニックに出かけるシーンがあり、その最高に優しい柔らかな光と空気に満ちた映像が、私は大好きです。
ロドルフォはミミと草花で戯れ、芝生の上で唇を重ねます。ショナールは恋人とボートで湖上の語らいを、マルセルは木陰でカード遊びをして恋人と笑いあいます。ピクニックに連れて行った愛犬ボードレールや湖上の白鳥さえも、其々に相手を見つけて二匹で戯れます。
この幸せがずっと続くといいのに・・・と、その後に訪れる哀しい結末を知っていつつも思ってしまいます。
でも・・・やって来るんですねぇ、哀しみは。
そしてやっぱり似合ってしまうんです、マッティ・ペロンパーの瞳には「哀しみ」が。
ロドルフォが最後に見せる、ミミへの「不器用乍ら愛を混めた」一瞬の微笑み。
そしてミミとの永遠の別れ。去っていくロドルフォをじっと見送るマルセルとショナール。
大仰な包容など無くていい・・・・心の底から絞り出した一言と沈黙に込めた想いがあったかくて、ほろ苦い涙がこみ上げてきます。
ラストシーンからエンドロールにかけて、バックにある音楽が流れます。
初めて観た時は「あっ!」と小声を揚げてしまう驚きでした。(あの曲はフィンランド人にはブルースに聴こえるのだとか・・・)
もしももしも、このブログを読んで下さっている数少ない方々の中で一人でも、「観てないけど観てみようかな」と思って下さるかもしれない人の為に、それが何の曲でどんな人が歌っているのか、それは秘密にしておきます。
でも、彼はもうこの世にいません。
フィルムの中でだけ生きる人です。
悲しいですが、私の勝手な想像通り彼が何かを抱えて生きていたのだとしたら、もしかしたら今は安らかな思いで魂を漂わせているのかも知れません。

マッティ・ペロンパーに乾杯!
彼を撮り続けたアキ・カウリスマキ監督にも乾杯!