『やわらかい手』(サム・ガルバルスキ監督)の前売りチケットをしっかり携えて。
モーニング2回のみの上映だからでしょうか、40分前に梅ガデに到着しましたが既に整理券番号は40番台・・・開場の頃にはロビーは一杯になっていました。

story
60年代の伝説の女神マリアンヌ・フェイスフルが、『あの胸にもういちど』以来39年ぶりに主演した女性讃歌。
ロンドン郊外に住む未亡人の主婦マギー(マリアンヌ・フェイスフル)は、重病の孫を救うべく手術費用の工面に奔走する。長引く闘病ですでに自宅は手放し、借金をするにも抵当がない。専業主婦の中年女に今更働き口が見つかるはずもなく途方に暮れていたとき目にしたのがセックスショップ「セクシー・ワールド」の“接客”の求人。“接客”の中身を知らずに飛び込んできたマギーにオーナーのミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)は呆れるが、その滑らかな手を見て雇うことを決める。その接客とは“男性を手で絶頂に導く”仕事だったのだが、ミキの見込んだ通り、彼女はその手の滑らかさで店でナンバーワンの“接客係”になる。(シネマトゥデイより)
この作品、原題は『IRINA PALM イリーナ・パーム』です。
イリーナ・パームとはマギーの“接客係”としての、いわゆる源氏名です。
映画を観る前は、原題は味気なく、邦題の『やわらかい手』っていうのはなんて繊細な感覚で付けられたタイトルだろうって思っていました。けれど、観終わった後はスクリーンに映える原題に深く心を打たれる思いでした。
だってこの映画は、マギーがイリーナとして、イリーナという人間を通して彼女の生き方を見つけていく映画なのだから・・・。
映画の序盤は、愛する孫の為に身を挺する決意をするマギーの「深い愛情」と、戸惑いながらも愛するものを想って自らを変えていく「信念をもつ人間の強さ」のようなものを描いていると感じさせられます。勿論それも今作品の魅力なのですが、中盤からは、マギーが「仕事」に信念とプライドをもち、オーナーのミキとの微妙な関わり合いの中で「女」としての自分を見出していく「自分発見」のテイストを帯びてくるのです。

自分探しとはいえ、マギーは「揺るぎない信念」を持って進んでいるようにも感じられます。全てを捨てて慈愛に生きる聖母のような・・・ね。けれど随所に、実は彼女の「迷い」や「戸惑い」や「悲しみ」やら「ちょっぴり後ろ向きの弱さ」なんかが見受けられ、この決してもう若くはない一人の女性に、観る者は「愛おしさ」を感じてしまうのです。
小さな演出ですが、マギーが毎日、就寝時にはアイロンのかかった清潔なパジャマをきちんと着込んでいることを見逃したくはないですね。
風俗産業に身を投じながらも、自分の生活のスタンスは変えることのなかった彼女に、好感という以上に凛とした生きる姿勢を感じるのです。
仕事を始めてすぐの頃、幾ばくかの報酬を受け取ったマギーが雑貨屋でリップシャインに手を伸ばしつつも結局は孫に贈る車のオモチャを選んでしまうシーンには、生活の疲れと老いを感じさせる手のアップと共に切なさがこみ上げます。
全ては「お金」のためだった・・・けれど仕事を通してオーナーのミキと関わりあううちに、彼女はお金だけではない「何か」を得ていくのですね。それが同じ女性として、観ていてほの温かい喜びを感じさせてくれるのです。
滑稽なシーンや台詞は多いけれど、決してコミカルな映画ではありません。
物憂げなトーンの音楽に乗って街を歩くマギーの姿には、ふと大好きな映画『バグダッド・カフェ』を想起します。あれも、何も持たなかった女性がカフェの人間達と関わりあいながら“変わっていく”映画でしたね。
そして今作は、親友と思っていた人間や仕事仲間との決別、過去の苦しい思い出や親子であるが故に辛辣な罵倒の様子などが容赦なく描かれてもおり、上っ面だけでは分かり得なかった人間の醜さが見え、『バグダッド・カフェ』よりも更に苦かったりもします。
それだけに、ラストのワンカットは秀逸です。
ほんの一瞬のカットですが、スクリーンにポッと美しい花が咲きます。
愛すべきラストシーンです。

主演のマリアンヌ・フェイスフル・・・ミック・ジャガーとの恋と歌手・女優としての成功から、ドラッグ中毒患者・ホームレスへの転落、そして再起、と実生活でも波乱の半生を持つ彼女。目元の皺にさえ生きてきた重みを湛え、半端ではない存在感を感じます。
そしてミキ・マノイロヴィッチ・・・いかにもヤクザな人生を想わせる風貌に時折見せる柔和さがいいですね。
ミキの劇中での台詞、「キミの歩き方が好きだ」の一言には感動。
歩き方にはその人の人生の全てが詰まっているのですものね・・・感動的な愛の表現だと思いました。
「人生って・・・」とか考えながら?劇中のミキに倣って、ウィスキーをストレートでグイッといきたい気分。ミキの呑みっぷりはまさにハードボイルドです。
喉の具合も良くなってきたことだし、やわらかいお酒は小休止して、美味しいハード・リカーを求めてそろそろ・・・

それにしても”手”ですかー。実はここ最近”手”ちゅうもんがいかに”老い”を如実に表すものであるか、とつくづく実感してたもんで・・・。白髪染めはできても(かぶれるため、していませんが)手の老いは隠せませんでぇ。(ここ1年程で一気に老いた自分の手)
けど、その手で何をするかが重要なんである、てことにしておきます。(自分が飲むビールつぐだけやったりして)(そらアカンやろっ)
ちなみに昨日、自分は今年初めての”劇場映画鑑賞”してきました。(缶ビール片手に)
ガーデンシネマにて、ジュリー・ガヴラス監督 ーぜんぶ、フィデルのせいー
よかったです・・・。
『ぜんぶ、フィデルのせい』ですかぁ!
私もこれは観に行きたかった一つです。この1月中盤以降は結構興味のある作品の公開が目白押しでで・・・『フィデル・・・』は前売りを買うか否か迷ってた作品です。また今度御感想をお聞かせ下さい。(ビール片手に、っていうのがシブいですね)
この作品は多くの女性に(特に若くはないかもと思ってる女性に)観て欲しいと思う作品です。
“手”は確かにね・・・「老い」というより「人生」が刻まれてる感じですものね。手って・・・男性も女性も、老いも若きも、何だか人生の縮図がそこにありますね。
綺麗だけじゃない手にも、惹かれる要素は無限大です。
そしてビイルネンさんの仰る通り「その手で何を為すか」が重要なのかもしれませんね。
私も、この土曜日“梅ガデ”でこの作品観てました。
ちなみに私の整理券番号は7番です。フフッ
>マギーが毎日、就寝時にはアイロンのかかった清潔なパジャマを
きちんと着込んでいる
なるほどー。なんかキチントさんな人やなぁと思いましたが、
言われてみればそうですね。うぅーん。(感心)
『バクダッド・カフェ』! あのドイツ人のおばちゃんの歩く姿。
これもなるほどぉです。
『バクダッド…』はかなり不思議な映画ですが、好きです。
ついでに主題歌に関しては、たまらなく好きです。
主人公の変わり様はこの作品よりもっとすさまじかったですけどね。
ところで、風邪は全快ですかぁ? おめでとうございます。
寒さが厳しくなってきて、強いお酒が恋しい季節なんですかね?!
主演にやっぱりシュワちゃんを迎えると・・
(またそのネタかい!)
そうなのですね(^_^)、同じ日に!(私は2回目の回でしたが同じでしょうか??)
それにしても「7番」ですかっ!凄いですね(*^_^*)。
『バグダッド…』は何度か観返している作品です。マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャック・パランス、いいですね。あの作品のラストも愛すべきラストでした。あっ、主題歌『コーリング・ユー』も忘れ得ぬ歌ですね。・・・また観たくなって来ました。
お蔭さまで風邪は全快・・・と言いたいところだったのですが、全快か?という時になってお腹に来る風邪を併発したようで昨日は仕事を休んで寝込んでしまいました。しかし一日しっかり寝た分、今日は快復です。(「ノロ」ではないのでご心配無きよう・・・ただ「日頃の呑み過ぎが祟ったんと違うか?」説には反論出来ず・・・^^;)
今度こそ完全復活を遂げて“ミキ流のハードボイルド飲み”致したく思っております。
シュワちゃん、火星、とくるとそれは『トータル・リコール』でしょうか?
そういえばシュワちゃんが成りすました婦人の外見ってマリアンネ・ゼーゲブレヒトに似てたかも・・・です。
えっ!?・・・そういうネタじゃないですか^^;?
スミマセン、まだ完全復活できてなくてお頭も回っていません。^^;
本作はキネ旬ベストにも入っていて大好評ですよねー。
去年は母もの、母性をテーマにした映画が結構多かったんですが、そういう肝っ玉母さんとはちょっと違った立ち位置で、強さが前面には出ない戸惑いやおどおど感のある主人公のマギーの存在がまたよかったです。
『バグダッド・カフェ』はオールタイムのmyベストに入る大好きな1本ですー。
そうですね、戸惑いを隠せず、進みつつも思い悩むマギーに等身大の女性像をみる事が出来たのがよかったです。
>キネ旬ベストに入って
そうなのですか!それは嬉しいですね。
『バグダット…』は、女性ファン多し!ですね。いい映画は時を経ても不滅ですね
地味ながら味わいのある素敵な作品でしたね。
「あなたの声がすき」
「キミの歩き方が好き」
微笑ましいスローな恋に小さく拍手でした^^
多分やられっ放しだった近所のどろぼうネコにも
最後一発キマッテ、これもガッツポーズ(^_-)b
>スローな恋
そうそう、あのスローなテンポにまたしても等身大の自分を見る様な感じがして、若くはない私なんかは非情に微笑ましくありました・・・(*^_^*)。
最後の「一刺し」もパンチ力ありましたねぇ。ああなるとやっぱり言葉は剣よりも強く人を刺すことができるって思いますね。
いい作品に出会えた08年の初めでした。(*^_^*)
私にはジャラ〜ンというあのテーマ曲が
カウリスマキ監督を思い出させる作品で、嬉しくなりました(笑)
真っ直ぐに生きているマギーさんって、とても素敵でした。
それにドギマギするけれど、どんどん進化していく姿に励まされました。
終盤、少しお化粧も念入りに出勤し、ミキ氏に照れるマギーさん、可愛かったですよね。
TBさせて頂きました。
TBもありがとうございました!
そうでしたっけね、じゃら〜ん、じゃら〜んの音楽が響いてましたっけね?
「進化」という表現、とっても素敵です。
どんどん綺麗になっていくマギーさん、、、私も幾つになっても前を向いて生きていたいです。